くらしき不洗観音寺

奈良・天平時代から、安産・子授け・女性の厄除けの観音様として人々から親しまれる寺。 亀田は庭及び周 景の改修作業全般に携わる。世代を超えて子供の健やかな成長を見守り続ける寺、 その寺とともに100年先を見据えて造り上げる庭とは・・・

祝意あふれる、観音霊場の庭を

不洗観音寺の縁起は奈良・天平時代にさかのぼり、安産・子授け・女性の厄除けの観音様として人々から親しまれている。不洗観音寺には、「観音霊場」という壮大なテーマがあり、庭もそれに合わせ、「祝意」にあふれ、品格ある庭でなければならず、かつ、女性や子供がやすらぎを感じられる庭でなければならない。
また、不洗観音寺住職の希望として「誰でもが来て楽しめる庭」、「花が絶えず咲いている庭」という想いもある。亀田は不洗観音寺の庭のみならず、不洗観音寺とその周囲の山一帯を一つの世界と捉え、荘厳な針葉樹の緑に抱かれた、花々が咲き光あふれる安らぎの観音霊場とイメージし、庭造りをしている。

そういった、壮大なイメージを抱きつつ、日々は「できる限りいい庭に」と、それだけを思い仕事するという。 不洗観音寺の庭に携わって15年以上が経つが、この先いつ作業が完了するかはわからないという。なぜなら、寺というものは、常に100年単位でものを見ているからであり、庭についてもしかりである。亀田の想いもまた、寺の想いとともに、100年先にあるのである。

参詣者の姿を目に浮かべながら・・・

不洗観音寺は、寺という公共的な性格が強い場所のため、「安全性」という機能面を重視されなければならない。特に、参詣者は、母親と小さな子供、その祖母や祖父といった年配者も多い。誰もが特に意識しなくても安心してスムーズに歩けるような、目に付かない配慮が必要なのである。敷石ひとつにしても、歩きやすいこと、歩いた時の足裏の感触が心地よいことにこだわる。

亀田は、石の面に少し凹凸をもたせ、歩く一歩々を確認できるよう配慮している。また、敷石の通路に水がたまらないよう、通路の真ん中を少し膨らませる工夫をしている。このように細部まで神経の行きわったった敷石は、端正で清らかな美しさを見せ、かつ、その姿には、ふくよかな印象がある。
また、寺には、行事ごとに人が集まることが多い。お正月、節分、そして不洗観音寺では5月に薪能が奉納される。
どのよう人がどのくらいの人数、またどのような状態でどのように楽しむのか。人々が集う情景を思い描き、庭造りをしているという。

緑に抱かれた花咲く安らぎの地、不洗観音寺

寺には、四季折々様々な花が絶えず咲く。冬は梅、春は桜、雪柳や山吹。夏は藤や娑羅に小さな花々。秋は桔梗、萩。野草も所々に見られる。四季折々、参詣者は咲き乱れる花々を楽しむことだろう。 また、針葉樹の荘厳な雰囲気、もみじの青葉と紅葉もよいものである。 寺の北には山があり、現在は、寺を緑で囲むようにだんだんと針葉樹を植え、周囲の植生を変えている。100年先には、どれほど立派に大きくなっていることであろうか。

寺の周りは、全部針葉樹の荘厳な緑、緑の壁。そして、寺の中に入ると、広く明るく砂利を敷いた清らかな境内が開ける。庭を歩けば松や紅葉があり、四季の花が咲いている。緑で囲まれた、明るく広い光あふれる寺、荘厳で心のやすらぎを得られる、稀有な場所となっていることであろう。

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補陀落の庭:池のある庭をと、新たに造った庭。石を組み上げた補陀落の滝を配した。

境内の敷石:歩いた時の足裏の感触が心地よい。ふくよかな厚みの感じられる、端正な姿。